今日は自らのミスで、すっかり自己嫌悪に陥ってしまった。朝、子供たちを保育園に送っていくときに、カギを持たずに家を出てしまったのだ。
普段、僕の彼女は8時40分くらいに家を出る。一方、僕は子供たちに食事をとらせたり、着替えさせたりしてから、9時20分前後なって保育園に向かう。ところが今日は、彼女は市ヶ谷に直行。そのため、9時過ぎに家を出ても間に合うことになった。僕の方は、夕方までに仕上げなきゃいけない原稿があったので、朝の時間はとっても貴重。そのため、保育園に子供を送る作業を彼女にも手伝ってもらったのだ。
僕は、朝に弱い。保育園に子供を預けに行くときも、寝グセのついた頭のまま、ボーっとしながら「ぉはようごぜもぁ~す」なんて気の抜けた挨拶をしてたりするわけだ。で、今日もそんな調子で家を出て保育園に向かい、子供たちのエプロンやタオルなどをセッティングしてから帰宅。サンダルをずるずると引きずりながら玄関までたどり着き、カギを開けようとしてポケットを探ると……、ない! カギがない!
一瞬にして眠気が吹っ飛んだ。混乱している頭を立てなおし、とりあえずお隣の玄関のチャイムを押してみる。電話を借りて、駅に向かっている途中の彼女の携帯を呼び出そうと思ったのだ。ところが、お隣さんは外出している様子。仕方なく、保育園に戻った。
保育園で、園長先生に事情を話して、電話を借りることに。ところが、彼女はもう電車に乗ってしまったようで、何度呼び出しても電話を取らない。焦る。原稿の締め切りは迫っているし、ほかの仕事だってしなきゃいけない。でも、家には入れない。どうしよう、どうしよう……。冷房の入っていない園長室で、背中に汗がにじんでいくのを感じる……。
結局、10時過ぎになってようやく彼女が携帯に出た。彼女はこれから打ち合わせに入るらしい。とりあえず、知り合いの保母さんに1000円札を借り、JRに乗って市ヶ谷に向かう。途中のコンビニでノートとボールペンを買って、電車の中で少しでも原稿を書こうと思ったが、なかなかまとまらない。
10時半を少し回った頃、市ヶ谷に到着。彼女の携帯に電話するが、留守番電話。しばらくしてからもう一度電話をかけると、ようやく連絡が取れた。市ヶ谷駅の改札で待ち合わせをし、11時過ぎにようやく彼女に会う。カギをもらい、ついでに金も借りて再び帰路に。結局自宅に戻れたのは12時過ぎ。夕方までにアップする予定だった原稿は途中でギブアップ。編集者に謝りの電話を入れて、17時から始まる打ち合わせに向かった。
打ち合わせに向かう途中の電車のなかで、午前中をすっかり無駄にしてしまった自分のミスに、心底がっかり。
こういう時、僕はカバンの中に入れているローリングストーンズのMDを取りだし、「スタート・ミー・アップ」を何回も聞くことにしている。前奏のギターフレーズが流れてきた瞬間に、なんだか少しだけハイになれる気がするのだ。
初めてこの曲を好きになったのは、多分カンザスシティのスタジアムだった。僕は、ホットドッグとコーラを持ち、アメリカンフットボールの試合がスタートするのを待っていた。デイゲームのフィールドは快晴。天然芝が日差しでまぶしかった。チーフスのチームカラーである赤が埋め尽くしたアローヘッドスタジアムで、満員の観客はざわつきながら思い思いに時間を過ごしていた。
と、「スタート・ミー・アップ」が大音量で流れだした。スタジアムの体温は、一気に上昇した。隣のガタイのいい白人の兄ちゃんが、「フォーッ!」とか叫びながら太い腕を振り回す。サングラスをしたきれいな女性が、ノリノリで踊っている。白髪のじいさんも、ビールをラッパ飲みしながらリズムを取って笑っている。ニール・スミスやデリック・トーマス、そしてもちろんジョー・モンタナのTシャツを着込んだファン達が、歓声を上げ地面を踏み鳴らす。そのとき、カンザスシティの空気が揺れているのを、肌で感じていたわけだ僕は。
ロックスピリットなんざあ、全然わかっちゃいない僕だが、このときは「心がロックアンドロールする」って感覚が、少しだけ理解できたような気がする。皆、心のそこから湧きあがった何かを押さえきれずに、ウワッっと解放してたんだよな。「笑っていいとも」の観客が、空虚な笑いを無理やり押し出しているのとは明らかに違う、はちきれそうなエネルギーの解放。
そう言えば、アメリカンフットボールやサッカーのスタジアムには、ロックのナンバーが良く似合うよな。サッカーの決勝戦の後なんかに、クイーンの「ウィー・アー・ザ・チャンピオン」が流れてくると、ホントに盛り上がってる。
アメリカやイギリスのスタジアムの様子を見ていると、ストーンズだとかクイーンだとかを、老若男女問わず、みんなで合唱しているのな。あれって、ちょっとイイ感じだと思う。ところが、日本のスタジアムって、みんなで歌う歌がないような気が……。Jリーグが発足したばかりの時に、Jのテーマソングみたいな歌を、確かチューブのボーカリストが歌ってたような覚えがあるのだが、あの歌も今では誰も歌ってない(よね?)。
そうそう、フランスW杯のときは「翼をください」をサポーターが合唱してたよね。やっぱり、日本人にはロックよりフォークなんだな。でも、「翼をください」を歌っている限り、日本代表は世界大会では勝てないっつう気もするんだけど。