山手線の車内で、ある英会話スクールの広告を見た。「英語力が身についたらしたいこと」というテーマで、数多くのコメントを集めるという体裁だった。
その中に、「作家・コラムニスト」という肩書きで、「英語の小説を書きたい」というような意味のコメントがあった。これ、絶対にウソだよな。本物の文筆家が、英語で小説やエッセイを書きたいなんて思うわけがない。
僕は言葉というものを、「限りなく透明に近い衣を、何重にもまとったもの」だと思っている。
例えば、「雨」という言葉。僕の「雨」には、子供の頃雨の日に寝小便をして母親に怒られた記憶とか、ケンカに負けて雨の中逃げ帰った記憶とか、好きな女の子と一緒にいるとき、急な雨に降られて走った記憶とか、そういうものがいくつもまとわりついている。一つひとつはほとんど無色だが、それが何重にも取り巻いた言葉は、抜きがたく僕だけの色合いを放っていると思うのだ。
言葉の魅力とは、そこにある。それぞれの人が持つ言葉の光彩に惹かれ、その色合いを生み出している、限りなく無色透明な衣の正体を知ろうとする。それが、言葉の喜びの核なのではないか。
外国語は、そういう言葉ではない。辞書的な意味だけしかない、裸の言葉だ。契約書や説明書のたぐいを書くのなら問題もなかろうが、そんな言葉を並べても、魅力的な文章になどなるわけがない。利き腕とは逆の手で絵を描くようなもの。書き手としても、ストレスがたまるに違いない。
僕が時折、日本の政治について考えを巡らすのは、これからも日本で生きていくしかないと思っているからだ。僕はこれからも、日本語で考え、日本語で書き続けるしかない。海外で暮らすということは、僕にとっては考えられない選択肢だ。
僕にとっての母国とは、母国語が使われている国のことなのだ。
コメント (11)
こんにちは!
私のブログに遊びに来て頂いて有り難うございました!
・・・覗きにやって参りました。
お仕事、忙しくされてますか?
日本語(母国語)を大切にするってステキな事だと思います。
私は英語も話せたらいいだろうなぁ程度には考えますが、
その前に日本語もままならない(^^;)のでは救い様がないですものね!(^^)
ステキな文章書いてもらいたいです。
そう云えば、他にはどんなお仕事されてるんでしたっけ?
聞いた事無かったなぁ・・・と思って。
投稿者: バンビ | 2005年01月28日 10:42
日時: 2005年01月28日 10:42
バンビさん、こんにちは。
こちらは忙しくはないです。
なにしろ、僕の目標は「月120時間労働」なので、
友達のライター、編集者、デザイナー、カメラマンに比べて
圧倒的に働いてません。
ま、昨年は僕にしては仕事をしたので、
目標達成できない月も多かったのですが、
もう今年は、働かない気満々です!
そういえば、バンビさんが前職をお辞めになるとき、
僕、「フリーになって、また一緒に働けるんですよね」
というような趣旨の話をしたと思います。
その当時はバンビさんの状況を全然知らなかったので、
なんだか無神経な言い方だったかもと、
後から反省しきりでした。
もし、あのときお気に障っていたのなら、
ホントに済みませんでした。
ずいぶん遅くなりましたけど、ごめんなさい。
投稿者: 白谷 | 2005年01月28日 10:49
日時: 2005年01月28日 10:49
白谷さんリンク貼らせて頂いてありがとうございます!
ブログを読ませて頂いてます。
ボクは普段言葉とかをほとんど意識しないで生きています。
音楽を聴く時にもほとんど歌詞にわざわざ耳を傾けたりもしないっス。
それなのに好きな歌手の歌詞は自然に覚えてしまったり…、
表面的にはどーでもいい歌詞でも、歌う人によってその歌詞が
なんだかすごい味のある言葉に感じられたりして…言葉っておもしろいなーと思ってます。
とりとめもないコメントですいません。
これからも見させて頂くのでよろしくお願いしまっス!
投稿者: かとうとおる | 2005年01月28日 13:37
日時: 2005年01月28日 13:37
かとうさん、こんにちは。
こちらこそ、毎日イラスト日記を
楽しく読ませていただいてます。
こちらのBlogはかとうさんのサイトに比べて、
エンターテインメント性でははるかに劣りますが(^^;
たまにはご覧になって下さい。
投稿者: 白谷 | 2005年01月28日 14:49
日時: 2005年01月28日 14:49
いえいえ!!!とんでもないです!!
誤らなくっていいんです〜〜〜〜!
大っぴらには出来ない事情もあったので(^^;)
今の私はブログの通りでございます。
プーもプー。ハローワークにちょっとずつ通う日々です。
“もう今年は、働かない気満々です!”
(^^)いいですね!それ!!(^∨^)
投稿者: バンビ | 2005年01月28日 14:50
日時: 2005年01月28日 14:50
はじめまして。mixiから来ました。
白谷さんの言わんとすること、非常に理解できます。
ただ母国語でない言葉で執筆活動を行っている方も、少なからずいらっしゃいます。
日本語で執筆をした外国語を母国語とする人達では、リービ英雄や「いちげんさん」のデビット ゾペティなど。
外国語で執筆した日本人ではキョウコ・モリやカズオ・イシグロなど。
(イシグロは日本人とは言えないかな…?)
水村美苗は英語と日本語のボーダーラインに限りなく近い作家だと思います。
もっとも、前者は日本で、後者は海外で教育を受けた人たちであるため、日本の英会話スクールに通っただけの人たちとは比較にならないほどの言語能力があります。
私はいわゆる「バイリンガル」と言われる部類に入る者です。
翻訳という職業に就いているため、自分の考えを述べた文章を書く機会は非常に限られています。それでも、「この内容は日本語の方がうまく表現できそうな気がする。」とか、「これは英語の方が明確に伝わりそう。」と思うことがあります。内容が言語を選ぶ、と言ったらキザかもしれませんが、それに近い感覚です。
書きたいテーマが決まったとき、母国語以外の言語の方が書きやすいこともありえるかな?と思ったのですが、いかがでしょう?
長文失礼しました。
投稿者: hackberry | 2005年01月30日 19:12
日時: 2005年01月30日 19:12
hackberryさん、はじめまして。
興味深いコメント、ありがとうございます。
複数の言語を日常生活の中で使っている、
あるいは使っていた方が、
バイリンガル、マルチリンガルとして文章を書くことは、
僕は全く否定しません。っていうか、うらやましいです!
サッカーで言えば、小野伸二選手みたいですね。
右足も左足もテクニック抜群、つう感じで。
僕は小野にはなれないので、
「左足の魔術師」、ジュビロの名波浩を目指そうかな、と
(右足で蹴る方がずっと楽な場面でも、かたくなに左足で
キックする名波の姿が、格好いいと思うんですよね)。
hackberryさんは、
英語圏で生活したことがあるのでしょうか?
であれば、英語を使って考えたり、経験したことも
たくさんあるでしょう。
そうして、英語の思考形式が自らの中に根を張っており、
言語の背後に十分な「記憶」を蓄えている方なら、
>書きたいテーマが決まったとき、母国語以外の言語の方が書きやすいこともありえるかな?と思ったのですが、いかがでしょう?
ということになるのでしょうね。
名波的には、小野伸二たるhackberryさんの頭の働き方に
かなり興味をひかれます。
こちらも長文失礼しました。
また機会があれば、ぜひお会いしましょう。
投稿者: 白谷 | 2005年01月30日 22:28
日時: 2005年01月30日 22:28
利き腕とは違う腕で絵を描くようなもの。とてもうまい表現だと思います。
10年前になりますが、長い旅行をしていました。その時に痛感したのは、「やっぱ俺の脳ミソは日本語で配線されてるらしい‥」ということ。毎日ブロークンながらも英語で喋っていたのですが、結局日本語で考えて英語にしていくスピードが単に速くなっただけではないかと。何か気持ちがうまく伝わってる感じが希薄というか。
しかし。そこまでは実感できたのですが、自分にとって言葉ってなんだろう?っていうことは未だに分からないまま。
なんとなく思ってるのは単語と単語の「間」が大きな意味を持つのではないかということと、単語っていうのは記憶の栞の役目を果たしているということ‥。うまく説明できません。
一体言葉ってなんなんだろ。
そういえば僕は右目で撮った写真と左目で撮った写真はアングルが微妙に違うんですよ(笑)。ちなみに利き目は左です。
投稿者: シロクロ | 2005年02月01日 22:47
日時: 2005年02月01日 22:47
replyありがとうございます。
かなり生意気なことを書いてしまったな~と思ったのですが、とても好意的に受け入れてくださって感謝しています。
私の場合、バイリンガルといっても日本の生活が長く、帰国後は日本語どっぷりの生活になってしまったため、実は英語能力はかなり怪しいことになっています。読み書き聞きは何とかなるのですが(「書き」も怪しいか?)、話しはおぼつかなく、半ば真剣に英会話スクールに入ることを検討している状態です。ですから作文やスピーチは日本語の方がこなせるはずです。
そんな中でも「今のこの気持ちは英語で表すならこう。でも日本語には適切な表現がわからない」またはその逆のような感覚になることがあります。
小野選手に例えていただけるなんて、恐れ多い!でもとても光栄です。好きな選手なので二重に嬉しいです。北朝鮮戦には出場するのでしょうか?応援したいです。
また遊びに参りますので、よろしくお願いします。
投稿者: hackberry | 2005年02月01日 23:20
日時: 2005年02月01日 23:20
シロクロさん、こんにちは。
>そういえば僕は右目で撮った写真と左目で撮った写真はアングルが微妙に違うんですよ(笑)。ちなみに利き目は左です。
これ、面白いですね!
熟練の職人とか老刑事は、「勘」で仕事をするって言うじゃないですか。
そういう「勘」は、僕なんかが良く働かせている「山勘」とは
全く次元が違うと思うんです。
きっと職人さんや老刑事の中には、過去に手掛けた作品や事件が、すべて納められている。
それらは無意識下で高度に整理され、集積回路みたいに結びつけられている
(シロクロさんのおっしゃるところの「配線」ってヤツですね)。
で、いざ作品を生み出そうと思ったり、事件を解決しようと思うと、
情報が無意識下の回路を駆け抜けて、正しい結論を導き出す、みたいな。
シロクロさんの中にも、きっとそういう回路があるんですね。
その回路の不思議な働きで、右目と左目のアングルが異なるっていう、
興味深い現象が表れているのではないかしら?
すげえなあ!
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hackberryさん、こんにちは。
先日も書いた通り、言語の力というのは文法の知識などより、
その言葉がどれだけの記憶を背後に蓄えているかという点にかかっていると思うのです。
特に、感情を表す言葉であれば、記憶との結びつきはさらに強いと思うので、
>「今のこの気持ちは英語で表すならこう。でも日本語には適切な表現がわからない」
というお気持ちになるのは、何となく想像がつきます。
つうても、高校時代、英語は常に赤点だった僕ゆえに、
あくまで「想像」しかできないんですけど(^^;
ホントは「理解」したいんですけどね。
小野選手、北朝鮮戦には出ないと思います。
というか、ケガから復帰したばかりなので、招集しないで欲しいなあ、と。
ここでムリしてオランダから戻っても、小野はもちろん、
日本代表にとってもいいことはないと思うんですよね。
でも、監督はジーコ氏だからなあ……。
ちょっと心配です。
投稿者: 白谷 | 2005年02月02日 09:22
日時: 2005年02月02日 09:22
いやいや、熟練の職人とか老練な刑事に譬えられると‥恥ずかしい限りです‥(笑)。
確かに今までの仕事は自分の頭の中に無意識に収められてるのだろうと思います。無意識に回答を出している事もしばしばです。
最近思うのは、どうやら自分のその回答がパターン化してきつつあるということなんです。長年かかって作り上げられたマンネリって非常に適応力(と言うのでしょうか‥)に長けた、優れたものであるがゆえに壊しづらいというか。やっぱ新しいことを試行錯誤していかないといずれは自分は枯渇してしまうんじゃないかと痛切に感じてます‥。とはいえ、マンネリがないと熟成しないような気もするし、その辺の匙加減がむずかしいっ!
温故知新という言葉は深いもんだな‥、と。そして同時に耳が痛いです(笑)。
投稿者: シロクロ | 2005年02月04日 09:01
日時: 2005年02月04日 09:01