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津波未経験者の早期避難率は、経験者より4割低い

チリ大地震:津波に6割避難せず…内閣府など調査

  内閣府と総務省消防庁は13日、2月末のチリ大地震による津波の際、大津波警報を受けて避難勧告・指示が出た地域の住民を対象にした調査結果をまとめた。避難した人は37.5%で、約6割は避難しなかったことが判明。避難した人でも避難勧告・指示が解除されるまで帰宅しなかった人は1割未満で、専門家は「津波の怖さを知ってもらう必要がある」と指摘している。

(2010年4月13日 毎日新聞)

 地震を経験したことのない日本人は、ごく少数だ。気象庁の震度データベース検索によると、日本では今年に入ってから、震度3以上の地震が33回観測されている。台風を経験したことのない日本人も少ない。気象庁の台風の統計資料サイトによれば、毎年平均して26.7個の台風が発生し、うち10.8個が日本に接近。さらに、2.6個が上陸するという。地震にせよ台風にせよ、ほとんどの日本人はその凄まじさを体感している。
 しかし、津波を見たことのない日本人はたくさんいる。僕もその1人だ。国内で津波による犠牲者がでたのは、2003年の十勝沖地震(Wikipediaによれば、1人が死亡、1人が行方不明)までさかのぼる。その前になると、1993年に奥尻島などを襲った北海道南西沖地震(Wikipediaによれば、津波による死者・行方不明者は200人以上)、1983年に秋田県沖で発生した日本海中部地震(Wikipediaによれば、津波による死者・行方不明者は100人)といったあたりだ。津波の恐怖を身をもって知っている人は、かなり限られている。
 悲しいことだが、人間の想像力は貧しい。自らが実際に経験していないことについて、あれやこれやと考えを巡らせるのは困難だ。内閣府・中央防災会議が「東南海、南海地震等に関する専門調査会(第9回)」で配布した資料「津波による死者数の想定手法について」によると、日本海中部地震を経験していた奥尻島では、23.0%が揺れが収まらないうちに避難をはじめ、54.9%が津波が来ないうちに避難を始めたという。無回答者を除いた「早期避難率」は81.1%に上った。ところが、日本海中部地震未経験の北海道島牧村では、揺れが収まらないうちに避難を開始したのが11.0%、津波が来ないうちに避難したのは29.7%。「早期避難率」は42.8%だった。津波経験者と未経験者では、早期避難率が約40%も違ったのだ。
 僕らは、2004年に起きたスマトラ島沖地震の映像を見ている。でも、それが自分の身に降りかかるとはなかなか考えられないものだ。だから上のニュースで、津波警報が発報されても6割は避難しなかったと聞いても、それほどの驚きはなかった。この地域は、十勝沖地震も北海道南西沖地震も日本海中部地震も経験していない。さらに、先に津波が到達したハワイ(ほとんど被害はなかった)の中継映像も見ていたはず。「多分大丈夫だろう」とたかをくくる人が多いのは、自然なことだろう。

 そして、気象庁が最大3m程度と予測したにもかかわらず、実際に観測された津波は最大で1m20cmにとどまった。普段とさほど変わらない海の映像を見て、津波を軽んじる気持ちはさらに強化されたのではないか。

 ただ、こうした気分が定着するのは怖い。実は2月のチリ地震直後に、仕事がらみで津波について調べたことがある。そこで分かったのは、「1mの波と1mの津波は、全くの別物」ということだ。その時に僕が書いた原稿の一部を、下に引用しておく。

 波(波浪)は、風によって海面が波立つ現象だ。波長(波の山から、次の波の山までの距離)は数mから数百mで、例えるなら「海の一部分だけがささくれ立つ」といった感じ。一つひとつの波が持つエネルギーは、さほど大きくはない。一方、津波の場合は波長が数kmから数百kmにも及ぶ。つまり、「海そのものが盛り上がる」というイメージだ。押し寄せる海水の量と、それが秘めるエネルギーの量は、普通の波とは比べものにならない。
 津波の怖さを具体的に想像したいなら、急流を思い浮かべる方がいいだろう。大量の水が間断なく押し寄せるという点では、津波は、波より川に似ているからだ。多くの人が経験しているとおり、仮に深さ20cmの川であっても、流れが急なら足を取られることだってある。深さが50cmを超えれば、歩くどころか、踏ん張って立つことだって難しい。わずか数十cmであっても、津波は危険なのだ。事実、1983年に起きた日本海中部地震では、70センチメートル程度の津波に足をさらわれ、青森県十三湖付近で3人が亡くなっている。
 また、「検潮所」という施設で観測される「津波の高さ」と、実際に起こる「波の高さ」は一致しないことも知っておこう。検潮所では高さ1mと観測された津波でも、狭い入り江などでは数m以上の波を引き起こすこともある。水まきしているホースの口を細くすると、水の勢いが増すのと理屈は同じ。海水のエネルギーが集中する場所では、「津波の高さ」をはるかに上回る高波に襲われる危険性だってあるのだ。

(リクルート「シゴトの計画」 ※2010年3月末にサイトが閉鎖されたため、リンクは省略)

 津波は、やはり怖いものなのだ。だから、そのことをどうにかして、自分の心の深い部分に理解させなければならない。例えば、深さ50cmの急流に立って足を踏ん張ってみたり、「防災館」のようなところで仮想体験をしてみたり……。そうして、自らの心の深い部分を納得させることが、「まさかの時」に生死を分けるのではないかと思っている。

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