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殺処分にどれだけの精神的・物理的負荷がかかるか、政治家は現場で学ぶべき

首相の宮崎入り「勝手に来て勝手に帰る」地元反発

 「今さら何をしに来たのか」。

 宮崎県の口蹄疫(こうていえき)発生から40日余りを経て、1日午前、初めて現地を訪れた鳩山首相に、地元では期待よりも不満や疑問の声が渦巻いた。予定では、現地滞在はわずか2時間半。連日の対策に追われる農家や自治体関係者らを県庁に集めて懇談するだけの訪問日程に、「現場を見なければ我々の苦しみが分かるはずがない」と批判の声も上がった。

(2010年6月1日 読売新聞)

 このブログで「宮崎県川南町では21.6%の牛・豚を処分~一刻も早く口蹄疫に対処を」という記事を書いたのは、5月6日のこと。それから4週間で、状況はさらに悪化した。宮崎県の口蹄疫に関する情報提供サイトによれば、5月31日時点の疑似患畜は既に247例。殺処分の対象になった牛・豚は16万4057頭に達している。
 東国原宮崎県知事は、5月6日付けの公式ブログ記事で「最早、パンデミックのレベルと言えるのではないだろうか?」と書いた。それは、全く正しい判断だったわけだ。ところが、国の敷いた体制はお粗末の一語に尽きた。そして今日、首相が宮崎を訪問したが、現場を見ずにとんぼ返り。地元の人々が怒るのは当然だろう。政治というものは、世の中を俯瞰して行わなくてはならない。でも、微視的な視点が欠けた政治は無力だ。現場も見ないで茶飲み話して帰るだけじゃ、酪農家の苦労は全く理解できないだろうよ。
 ただ、僕も酪農家の現実を知っているわけじゃない。そこで、口蹄疫の殺処分の大変さを想像するための材料を集めてみた。覚え書きのつもりでまとめておく。

○牛の重さ……軽自動車1台分に相当

 社団法人全国肉用牛振興基金協会のサイトによれば、去勢肥育牛の肥育終了時体重は、黒毛和種の場合で685kg、ホルスタイン種の場合で760kgほど。これは、ダイハツの「エッセ」やスズキの「アルト」といった軽自動車の重さ(最軽量車種で710kg程度)に匹敵する。

○牛の成育期間……2年~2年半

 社団法人全国肉用牛振興基金協会のサイトを見ると、去勢肥育牛の肥育期間は22.5~30月齢というケースが多いようだ。つまり、2年から2年半にあたる。

○殺処分の方法……薬物の投与、または電気ショック

 農林水産省の「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」によれば、殺処分は薬殺、電殺などの方法で行われる。未確認情報ではあるが、牛や大きい豚は薬殺、小さい豚は電殺処分になっているという話も出ている。

※殺処分に立ち会う方々の悲しさについては、47NEWSの記事「【口蹄疫 養豚場からの投稿(5)】殺処分が始まりました。上手く言葉が出てきません、悲惨です」を読むべきだろう。上記のように、数カ月から2年以上に渡って育ててきた牛・豚を目の前で殺される気持ちは、僕には想像さえできない。

○牛・豚を埋める穴……深さ4~5m、1頭あたり1.2畳

 「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」によれば、牛や豚を埋めるための穴は、深さ4~5m。家畜の死体の上に2mの土が被さるようにするそうだ。また、5月26日付け朝日新聞の「口蹄疫殺処分、埋める土地なく感染爆発 家畜大量放置」という記事によれば、宮崎県は、殺処分の対象になった30万頭弱の家畜を埋めるために50~70ヘクタールの土地が必要と見ているという。1ヘクタールは10000平方メートルだから、60万m2÷30万頭=2m2、つまり1頭埋めるためには2平方メートル(約1.2畳)の広さが必要だという計算になる。ちなみに、60万平方メートルは、東京ドーム(4万6755平方メートル)12.8個分の広さに相当する。

○家畜が埋められた土地……少なくとも数年は使用不能

 ツイッターアカウント@_Cow_Boyさんによると、2000年に北海道で口蹄疫が発生し、殺処分が行われた時は、「3年経っても、夏には周囲に悪臭が蔓延し、風に乗って数km先まで漂っていた」そうだ。数年経って臭いの問題が解決しても、その土地に多くの家畜が埋められた記憶は、簡単にはぬぐい去れないだろう。当然、住宅地や商業地への転用は難しいはず。土地としての価値は、数十年単位で低迷するに違いない。

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 酪農家は、手塩に育てた生き物を目の前で無益に殺される。殺処分を担当する獣医は、恐らく意に反して、さっきまで生きていた牛や豚を次々と殺す。運搬や埋却を担当する人々は、4~5mもある穴を掘って軽自動車ほどの重さを持つ生き物を運び、埋め、土を盛る。そして、家畜が埋められた土地は、数年、あるいは数十年に渡って人の寄りつかない場所になる……。

 今、宮崎では、そういったことが十数万回も、繰り返して行われているわけだ。

 現場で働いている人がどのような思いで、殺処分に向き合っているか。1頭の牛や豚を殺処分するのに、どれだけの精神的・物理的負荷がかかっているのか。それは、県庁の応接室で話を聞くだけでは絶対に分からない。政治家は少なくとも現場に足を運び、現場で涙や汗を流している人たちの気持ちを、できる限りの努力を払って汲み取らなければならない。

 そんな風に、僕は思う。
 

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