ホーム > 雑文 > 岡田監督への評価は「是々非々」で行うべし

岡田監督への評価は「是々非々」で行うべし

■「岡田監督は名将」報道への違和感

新聞報道などでは、サッカー日本代表の
岡田武史監督に対する評価が急上昇しているようですね。
岡田監督を「名将」と呼ぶ人もたくさんいます。
しかし、僕は岡田監督を「名将」だとは思いません。
長所もあったけれど、失敗も数多くした監督だと考えています。

「名将」という言葉の定義は、人それぞれでしょう。
「偉大な実績を残したリーダー」と考える人もいるはずで、
その場合、岡田監督は文句なく「名将」と呼べます。
なにしろ、国外開催のワールドカップで、
日本代表を初めてベスト16に導いたわけですから。

僕自身も、岡田監督の残した業績に対しては、
心から尊敬していますし、感謝もしています。
ただ僕は、結果を残すことだけが
「名将」の条件ではないと思っているのです。
ですから、現在の状況には違和感を覚えますね。
レッテルを貼って、そこで思考停止をしているのではないかと。

■カメルーンのバー直撃シュートが入っていたら?

ワールドカップの本大会は、一種の博打場です。
貯め込んだ戦闘能力を元手に、各国が大勝負をかけています。
で、博打で多額の払戻金を受け取りたいと思ったら、
用意する掛け金の額を増やすのが、まずは本筋ですよね。
1万円の元手で10万円の払い戻しを狙うより、
9万円の元手で10万円を目指す方がずっと易しいですから。
だからこそ、4年間、あるいはそれ以上の期間を費やし、
各国はせっせとチームを強化しているわけです。

もちろん、いくら元手を増やしても、
大きな払い戻しを受け取れる保証はありません。
何しろ、博打場ではサイコロの目がものを言います。
できる限りの準備を行って元手を大きくしても、
本番での出目が悪くて、負けてしまうこともある。
だからこそ、「悲運の名将」という言葉が存在しうるのでしょう。

今大会の初戦、対カメルーン戦の後半40分。
相手選手の放ったシュートがクロスバーを直撃したシーンがありました。
もし、あれがゴールに吸い込まれていたら、
引き分けていた可能性はかなり高かったと思います。
そしてカメルーンから勝ち点1しか奪えなかった場合、
最終節のデンマーク戦では勝利が必須となり、
試合の展開はずいぶん変わっていたことでしょう。
日本が早々に南アフリカから追い出されていた危険性も、
十分にあり得たはずです。

もし仮に、あのシュートのせいで
日本代表がグループリーグで敗退した場合、
岡田監督は「悲運の名将」と呼ばれていたでしょうか?
恐らく、そうはならなかったと思います。
なぜなら、日本代表の戦闘能力という元手は、
岡田監督の就任以来、目減りしていたように見えていたからです。

■岡田監督就任以来、日本の戦闘力は低下していた

2007年秋、イビチャ・オシム前監督が倒れる直前の日本代表は、
明るい雰囲気に包まれていたと記憶しています。
もちろん、僕はジェフ時代からのオシムファンなので、
ひいき目が入っているのは否定しません。
ただ、10月の対エジプト戦などは、
スピードとアイディア、展開力で相手を圧倒した、
可能性に満ちた試合だったと思います。
ジェフで展開されていたサッカーが、
代表にも順調に移植されつつあった様子を見て、
僕は興奮を覚えたものです。

ところが、監督がオシム氏から岡田氏に代わり、
チームの質は下がっていきました。
少なくとも、僕にはそのように見えましたね。
無論、いい試合もいくつかはありました。
しかし、全試合を俯瞰で見ると、内容は右肩下がりだったと思います。

評論家やブロガーの中には、岡田監督の「コンセプト」を取り上げ、
その正否を議論していた人もいました。
でも僕は、「コンセプト」が正しいかどうかなんて、
あまり意味があるとは思えないんですよ。
大事なのは、そのコンセプトをチームに浸透させられるのか。
そして、コンセプトが浸透したとき、
チームが勝てるようになるのかということ。
ホワイトボードに何を書くのも監督の自由ですが、
それがピッチ上で表現できなければ、意味はないのです。

その点、岡田監督のチームには、なかなか期待が持てませんでした。
前線の選手が、ボールを持った相手ディフェンダーを単独で追いかけて疲弊する。
逆サイドに大きなスペースが口を開けているのに、
各駅停車のショートパスをつなぎ、相手に悠々と対応される。
試合中にそんな姿を何度も見せられ、僕はそのたびに失望したものです。
そして、岡田監督には、「コンセプト」を具体化する
手腕やノウハウがないのではないかと、疑問を抱いたのでした。

■成功した布陣変更も、泥縄式の対策だった

失望がピークに達したのが、今年2月の東アジア選手権、対韓国戦であり、
4月の親善試合、対セルビア戦です。
対戦相手はどちらも、ワールドカップ本戦出場国。
大会を目前に控え、チームの完成度を測るためには絶好の状況でした。
ところが、試合はどちらも惨敗。

ここで岡田監督は、大黒柱だった中村俊輔を先発から外し、
アンカーに阿部勇樹を据えました。
さらに本番直前には、MF本田圭佑のワントップ起用を決意。
この布陣が結果的に大成功でした。
ただ、これをもってして岡田監督を手放しに賞賛するのは無理がある。

阿部のアンカー起用は、よくある「泥縄式守備対策」の1つでしょう。
発想は、フィリップ・トルシエ元監督が「サンドニの虐殺」の直後、
超守備的な5バックを採用したときのそれと似ています。
また、本田のトップ起用に関しても、付け焼き刃としか言いようがありません。
本田はFWの経験が非常に浅く、特に、高いレベルの実戦経験は皆無でした。
上手くいったからよかったようなものの、
企画倒れに終わった危険性もあったと思います。

サッカーに限ったことではなく、
世の中には、「実戦で試さなければ分からないこと」や、
「実戦で試して、初めて見つかる改良点」がたくさんあります。
いわゆるコンバット・プルーヴンってヤツですね。
もし、岡田監督が本番を見越し、そこから逆算して戦略を立てていたというなら、
韓国戦やセルビア戦で、これらの対策を試していたと思うのです。
実戦で試してその戦略が本当に通用するかどうか、
そして、どのようなオプションが存在するのか探ったはずです。
しかし、アンカー阿部を試したのは、ワールドカップ初戦のわずか2週間前。
本田のワントップにいたっては、直前の練習試合で初めて試したわけで、
これは、この布陣が泥縄的に編み出されたことを意味します。
ホント、本番でいい目が出てよかったですよ。

岡田監督が情報戦を行っていたという説もあるようですが、
こちらも可能性は低いと思います。
本番直前の試合で情報戦を展開して惨敗するのは、
手の内を隠せるというメリットより、
選手の自信を失わせるというデメリットの方がはるかに大きい。
第一、岡田監督は韓国戦の直後に「進退伺い」を出しています
(ご本人は冗談だったと仰ってましたが)。
地位を失う危険があるのに、情報戦をやろうとする指揮官がいますかね?

さらに、有効なオプションを試す余裕がなかったため、
先発選手を固定せざるを得なかった点もマイナスでしょう。
決勝トーナメントの対パラグアイ戦は、勝つチャンスが十分あったと思うのですが、
先発選手は体力が切れて走れなくなり、
交代選手も結果を出すことができませんでした。
このあたりは、急造チームの限界だったのだと思います。

結局、岡田監督は、チームの力を一歩一歩積み上げることには失敗した。
直前になって慌てて練った緊急対策が幸運にも成功しただけで、
少なくとも戦略面ではミスも少なくなかったというのが、僕の見立てです。

■体調とやる気の管理能力は素晴らしかった!

ただ、今回の日本代表は、本当に素晴らしい試合を見せてくれました。
彼らが僕たちの「代表」であったことを、僕は心から誇りに思っています。
そのチームをまとめたのは、何といっても岡田監督でした。

南ア大会での躍進の原動力は、運動量と、戦う気持ちだったと思います。
4試合を通して、先発メンバーは固定。
川島永嗣、中澤佑二、田中マルクス闘莉王、駒野友一、長友佑都、
そして本田の6人については、390分の全てに出場しましたが、
どの試合でも、日本代表は走り負けていませんでした。
さすがに最終戦は足が止まる選手が目立ちましたが、
厳しいアウェーの環境で、選手の体調をこれだけ整えられたのは、
監督やスタッフの勝利だったと言えるでしょう。

また、岡田監督のモチベーションマネジャーとしての力量も、
とても素晴らしかったと思います。
今回のチームは、長谷部誠を中心に結束が強かったと聞きます。
もちろん、各選手が寄与した部分も大きいとは思いますが、
岡田監督にも、そうした雰囲気を産みだした功績があるはずです。
カメルーンの姿などを見ていると、さまざまな重圧がかかるなかで
代表チームをまとめる仕事は、一筋縄ではいかないのだろうと痛感します。

そしてもちろん、短期間でチームをまとめ上げた指導力も賞賛に値します。
戦略的には博打的な要素が多かったのですが、
ともかく、岡田監督は博打に勝ちました。
ワールドカップは結果を残すことが、何よりも求められる大会。
そこできちんと結果を出したのは、偉大な業績です。

■手腕と限界を公平に分析した論評に期待

長期的なチームの育成には失敗したが、
短期的な建て直しには成功。
選手の体調を上手に管理し、やる気を上手く引き出して、
南アで大きな成功を得た。
ただ、急造チームゆえの限界を克服できず、
ベスト8以上を勝ち取ることはできなかった。
それが、岡田監督に対する公平な評価だと、僕は思います。

僕自身、今回の代表の闘いぶりには感動しました。
ただ、甘い蜜にまぶされているからといって、
その奥にある毒をなおざりにしてはいけないとも思っています。
いい加減、「名将・岡田」式の一面的な見方は止めにしませんかね?
その逆に、失敗したときの「○○、氏ね」的な言説にもうんざりします。

日本の挑戦が終わった今、さまざまな論者が冷静さを取り戻して、
このテーマについて書かれるのだろうと思います。
岡田監督の悪かった点、よかった点を是々非々で判断する、
そうした論評が今後たくさん現れることが、
明日の日本のサッカーを、今日より前進させる力になる。
オシム好きとしては、そんな風に思うわけです。

——————–

ここしばらく、ワールドカップのことばかりを取り上げてきました。
しかし、その「特別編」も、今日でいったん区切り、
明日からは通常運転に戻ろうと思っています。

サッカー関連のキーワードでこちらのブログを読んでいただいた皆さん。
駄文にお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

—-
※2つのブログランキングに参加中です。下のバナーをクリックしていただけると嬉しいです。

人気ブログランキングへ にほんブログ村 ニュースブログへ

—-

関連する記事:


コメント:4

ひらやま 2010年7月4日

難しい試験を前に、
「80点(ベスト4)を目指し、そのための努力する」といっている者に、
応援(批判もありだが)をせずに鼻で笑ったり、
無理だと決めつけてバカにする多くの人達に
少なからず憤りを感じていました。
そして結果として70点を取ったことに手のひらを返して
賞賛するに至っては、軽い絶望感さえ覚えます。

結果はもちろん大事ですが、本当に強くなりたいのなら
その課程はもっと大事なことだと思っているため、
今回のベスト16には喜びがある反面で複雑な心境でもあります。

ボクは韓国戦後の岡田監督のコメント
「このレベルの相手と久しぶりに試合をしたので
 スピードに付いていけなかった」に、
完全に着地点を見誤ってチームを作り、
直前まで気がつかずにいたことに愕然としました。

これは目標地点について見極める能力が欠如していたのか、
それとも協会批判の意味なのか分からない部分はありますが、
せめて「模試」を受ける機会がもっとあれば
違った準備、結果が期待できたかもしれない点で残念に思います。

それにしてもアジア予選とW杯で目指すところが一致しない現状は
どうしたらいいものでしょうか?
予選と本番で監督を換えるとか?
個人的にはチリのビエルサ監督のサッカー(オシムに近い?)が
楽しかったし人気が出そうな気がしますが、
チリがブラジルに歯が立たなかったように
望む結果には届かないのかなと思ってしまいます。
ボクはどちらかといえば結果より楽しいサッカーを
支持しますけどね。

白谷 2010年7月4日

ひらやまさん、ご無沙汰してます!
Iさんの写真集でやりとりして以来ですかね?
お元気ですか?

「模試」を受ける機会が少ないっていう課題は、
日本にとっては重いですよね。
来年日本はコパ・アメリカに出場しますが、
こういうヒリヒリするような実戦の機会がたくさんあれば
いいと思うんですが……。
クラブではACLなどがありますが、
代表レベルでも、韓国やオーストラリアとの対抗戦などがあれば
ずいぶん違う気がしますね。

全然話は変わりますが、そちらはツールは見てませんか?
昨夜がプロローグだったんですが、燃えましたよ!
今度お会いしたときに、また語りましょう!

ひらやま 2010年7月5日

ツールは大部分を放送する有料チャンネルの契約をしていないので、
ここ数年、まともに見ていないですね。
見始めるとテレビから離れられなくなるぐらい
はまってしまうんですけどね。
ところで先週、仕事で松江に行き、
ご同業のKさんのご実家である酒屋さんを見つけました。
ご本人からちょっと意外な展開も聞いたのですが、
その辺りはまた今度。

白谷 2010年7月5日

ひらやまさん、こんにちは。
ツール、はまりますよね。
ただ、サッカー、NFL、ロードレース、野球など、
いろいろなスポーツを全部見るわけにはいきませんからねえ。
観戦時間に比例して、いろいろな面白さが見えてくると
分かってはいるのですが……。
.
では、今度実際にお会いして、
いろいろなお話を聞かせてください~。

コメントフォーム
入力した情報を記憶する

トラックバック:0

この記事のトラックバック URL
http://www.shiratani.net/2010/07/01/%e5%b2%a1%e7%94%b0%e7%9b%a3%e7%9d%a3%e3%81%b8%e3%81%ae%e8%a9%95%e4%be%a1%e3%81%af%e3%80%8c%e6%98%af%e3%80%85%e9%9d%9e%e3%80%85%e3%80%8d%e3%81%a7%e8%a1%8c%e3%81%86%e3%81%b9%e3%81%97/trackback/
トラックバックの送信元リスト
岡田監督への評価は「是々非々」で行うべし - 白谷のノート(3冊目) より

ホーム > 雑文 > 岡田監督への評価は「是々非々」で行うべし

注意書き
 このサイトはリンクフリーです。個別記事への直リンクも問題ありません。引用については、ルールの範囲内でどうぞ。
 記事に誤りなどがあれば、コメント欄、または書き手についてページ内のメールフォームを使ってお教えいただけると、大変ありがたいです。
 初めてコメントをご投稿いただく場合、管理人の承認が行われるまで表示されないことがあります。時に、承認まで数日かかることもありますので、あらかじめご了承ください。
書き手について、他
検索
過去に書いたこと
ブックマークとRSS

全ての記事(RSS2.0)
全ての記事(Atom)
全てのコメント(RSS2.0)


過去につぶやいたこと
つぶやいたこと

ページの上部に戻る