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電子書籍の普及は、埋もれていた書物の発掘をもたらす!

米アマゾン通販、電子書籍販売冊数がハードカバー本抜く

 米ネット通販大手アマゾンは19日、同社の通販サイトでの電子書籍の販売冊数が、ハードカバーを抜いたと発表した。ただ、同社は部門別の販売冊数や売上高を公表していない。日本の文庫や新書に相当するペーパーバックの取り扱いも多いため、「電子」は「紙」をまだ抜いてはいない。

(2010年7月20日 朝日新聞)

 20日9時時点。上で紹介した記事では、次のように書かれていた。
「ただ、同社は部門別の販売冊数や売上高を公表していない。日本の文庫や新書に相当するペーパーバックの取り扱いも多いため、『電子』が『紙』を抜くにはまだ時間がかかるとみられる。
 ところが、同じ部分は20日12時の時点で、次のように書き換えられていた。
「ただ、同社は部門別の販売冊数や売上高を公表していない。日本の文庫や新書に相当するペーパーバックの取り扱いも多いため、『電子』は『紙』をまだ抜いてはいない。
 朝日新聞がどのような意図で、表現を改めたのかは不明だ。ただ、この文面の変更から、書き手の感情を邪推することはできる。朝日新聞は、言わずと知れた紙媒体の雄。最初は強い願望を込め、「電子書籍が紙を抜くのはずっと先」と書いた。しかし、あまりに生々しいセリフ回しに自ら赤面し、より客観的な文言に変えたのではないか。僕も、紙媒体の出身者。その気持ちの揺らぎは分かる気がする。

 朝日新聞が動揺するのも、無理からぬことだ。アメリカにおける電子書籍の伸びは、それほど衝撃的なニュースだった。

 従来型書籍の売り上げは、おおざっぱに言って、1割が著者、2割が出版社、3割が取次と書店、4割が印刷・製本会社に渡る。本の書き手より、流通や製造工程の取り分の方が多いのだ。特に取次は、本の流れを一手に仕切る関所奉行のような存在で、非常に大きな権力を握っている。
 ところが、もし電子書籍が一般的になると、業界地図は一変する。取次や書店の役割は、アマゾンなどの電子出版事業に取って代わられる可能性が高い。いわば、関所を通らずに済む大街道が新たにできたようなもので、取次の存在意義は霧散してしまうだろう。また、電子書籍では印刷や製本も不要になる。
 7月20日付け毎日新聞記事「クローズアップ2010:電子書籍、出版・流通の分業死守」は、アマゾンやアップルなどの「黒船」から電子書籍市場を守るため、国内企業が連携を模索していると伝えている。参加企業は、印刷会社、書店、出版会社など。どこも、電子書籍の普及で経営基盤を失いかねない企業だ。昨日までのライバルと手を組み、必死に外圧と戦おうとする姿は、幕末期の幕府・雄藩の動きと似ていなくもない。

 一方、電子書籍の普及は、文章の書き手にとっては利点が多い。何しろ、売り上げの4割を取っていた印刷・製本工程が消え去り、3割を持っていった取次もいなくなる。その結果、著書の取り分は大きく増えるわけだ。2010年1月21日付けウォール・ストリート・ジャーナル日本版記事「アマゾン、電子書籍印税を大幅引き上げ」は、アマゾンが一定の条件を満たした著者に対し、印税率を70%に引き上げると報道。著者が編集者や校正者への外注費を支払ったとしても、販売価格の6割程度が手元に残る計算だ。これは、現在の「印税率1割」とは比較にもならない。

 現在の出版界では、初版3000~5000部というのが一つの目安だ。仮に1000円の書籍が5000部売れた場合、著者に入るのは、1000円×10%(著者印税)×5000部=50万円。刷部数がこれ以下になると、著者も出版社も利益が見込めないため、書籍化を見送るケースが多い。つまり、3000部も期待できないような書籍は、学術書など特殊なケースを除いて、埋もれるしかない運命だった。
 ところが、電子書籍の広まりで印税率が高まれば、著者が取りうる戦略はグンと広がる。仮に1000部しか売れなくても、単価が1000円・著者印税が60%なら、著者の取り分は1000円×60%×1000部=60万円。十分に採算ラインに乗る。また、価格を下げて多くの読者に手にとってもらうことも可能だ。仮に単価を300円に下げて3000部売ることに成功したら、300円×60%×3000部=54万円。これも商売になるのだ。つまり電子書籍は、従来は埋もれていたような書物でも、世に送り出せる力を持っていると言える。これは、著者にとっても読者にとっても素晴らしいことだろう。

 もちろん、話は単純にはいかない。日本における電子書籍端末の普及率は、まだまだ低い。また、電子書籍より紙の出版物が便利な状況もたくさんあるだろう。紙の本が一切なくなり、全て電子書籍に切り替わることなどあり得ないのだ。しかし、現在のペースで電子書籍が普及すれば、現在の出版・取次・書店というシステムは、いずれ崩壊するだろう。
 現在の仕組みをどこまで温存するか。または、紙の出版物を発行し続けるために新たな仕組みを生み出すのか。電子出版の普及を進めながら、並行して従来型書籍の流通システムを考え直す必要がありそうだ。

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コメント:2

BLITZ 2010年7月21日

iPadの発売によってにわかに話題となり、他社も含め、
今年来年と売り上げは伸びるでしょうね。

自分もiPadには関心ありですが、他の機能含め、
もうしばらく検討です。
出版業界には影響あるだろう電子書籍だけど、
従来の紙にも利点はあるわけで、流通のスタイルが、
そうそう簡単に変わることはないでしょう。

白谷 2010年7月21日

BLITZさん、こんにちは。
.
紙の書籍がなくなることはないと思います。
でも、置き換えられるものは、電子書籍に代わるでしょうね。
利用者としては、都合のいい方を使えばいいんですが、
一方で、紙の書籍の作り手が耐えきれず、
ばたばた倒れていく事態も予想されるんですよね。
個人的には、身の丈に合わせて縮んでいけば、
紙の世界も十分やっていけるとは思っているのですが。

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