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「26%の残業増」の実態は、「1日あたり残業時間が1分増えただけ」だった

河村市政、名古屋市職員は残業ずしり… 前年比26%増

 名古屋市職員の残業時間が河村たかし市長の就任した2009年度に、前年度より26.2%増えていたことがわかった。交通局や教育委員会、区役所などを除く市長直属の8局2室のすべてで前年度を超えた。

 河村市長は09年4月に就任した。朝日新聞は名古屋市の情報公開制度を使い、8局2室について08年度と09年度の超過勤務時間数を調べた。その結果、08年度が計44万7117時間だったのに対し、09年度は56万4405時間で、約12万時間増えていた。

(2010年11月16日 朝日新聞)

 僕は、河村たかし名古屋市長をそれほど評価していない。
 名古屋市サイトの「平成22年度予算のあらまし」によると、現在の市債残高は3兆3076億円。こうした状況で、市長の公約だった「住民税10%減税」を実行するのは、ずいぶん大衆迎合的な政策ではないかと思うのだ。

 ただ、上の朝日新聞記事は、あまりに気の毒だと感じた。朝日新聞記事の主張は、「河村市政になって市職員の負担が急増した」ということ。しかし、これはずいぶんな悪意のある書き方だ。
 記事によれば、名古屋市職員の総超過勤務時間数は、08年度が44万7117時間で、09年度は56万4405時間だという。これが正しければ、確かに26.2%も増えている。しかし、これを職員1人あたりの数字に直してみると、別の印象が浮かび上がってくるのだ。

 名古屋市サイトの「平成21年度 人事行政の運営等の状況」ページによれば、名古屋市の職員数は2009年4月現在で2万6910人、2010年4月時点で2万6157人。これらの人数で、総超過勤務時間を割ってみたのが下の表だ。

  2008年度 2009年度
総超過勤務時間(A) 44万7117時間 56万4405時間
職員数(B) 2万6910人 2万6157人
1人あたり超過勤務時間(A÷B) 16.6時間 21.6時間
1カ月あたり超過勤務時間(A÷B÷12) 1.4時間 1.8時間

※本来なら、2008年度の残業時間数を2009年3月末時点の職員数で、2009年の残業時間数を2010年3月末時点の職員数で割りたいところ。しかし、どちらのデータも見つからなかったので、上記の人数を採用した。

 2008年度の1人あたり残業時間数は、16.6時間。一方、2009年度には21.6時間と増えた。しかし、1カ月あたりに換算すると、2008年度は1.4時間で、2009年度は1.8時間となる。増えた超過勤務時間数は、1カ月に0.4時間、つまりたったの24分。実態は、1日に1分強、残業時間が増えただけの話なのだ。
 朝日新聞が超過勤務時間数を算出したのは、会計室・市長室・総務局・財政局・市民経済局・環境局・健康福祉局・子ども青少年局・住宅都市局・緑政土木局の2室8局。消防局・農業委員会事務局・選挙管理委員会事務局・監査事務局・人事委員会事務局・教育委員会事務局・市会事務局・病院局・上下水道局・交通局は対象外となっている。だから、正確な1人あたり残業時間は、上記の数字より多少長いのだろう。だが、それにしても、1日あたりの残業時間が2~3分増えた程度だったはず。それなのに、「26%の労働強化」という見出しをつけるのは、公平な報道とはいえないだろう。

 こうした記事を読むと、書き手はどうしても河村氏を貶めたいのだろうかと勘ぐってしまう。これが、ただの思い込みならいいのだが。

 
【追記】

 11月17日、上記記事を担当された朝日新聞の記者の方から、とても丁寧なメールをいただいた。それを受け、以下を追記しておきたい。

・紹介した「河村市政、名古屋市職員は残業ずしり… 前年比26%増」の記事は、もともと、朝日新聞名古屋本社版の夕刊記事に掲載された記事である。
・asahi.comに掲載されているのは、本来の記事のごく一部である。
・本来の記事には、「残業が増えた」とこぼす市職員のコメントと、「仕事の効率は高まった」と評価する市職員のコメントの双方が掲載されている。また、定例会見における河村市長の談話や、人事コンサルタントの「公務員の話は割り引いて聞く必要がある」というコメントも掲載されており、バランスのよい記事になっている。

 記事全体を読むと、少なくとも記事を書いた方に、「河村氏を貶めたい」という意図がないことはよくわかった。双方の言い分をきちんと紹介している、公平な記事だと思う。だが、それだけに、「河村市政、名古屋市職員は残業ずしり… 前年比26%増」という見出しがつけられたのは残念だ。
 名古屋市職員の平均的な勤務状況を一言でまとめれば、「以前は1日に4~5分しかなかった残業が、河村市政になってからは1日あたり6~7分に増えた」というところだ。確かに、残業時間は急増したかもしれない。だが、それでも1人あたりに直せば1日に数分。微々たるものなのである。民間の感覚からすれば、「そんなもの、誤差の範囲だろ!」と突っ込みたくなるほどだ。それなのに、「残業が26%増」という見出しをつけるのは、やはり筋がよくないと感じる。

 ここからは私の推測に過ぎないが、記者が書いたのは記事部分だけなのだろう。そして、整理部員など別の人が、記者の意図とは多少離れた見出しをつけてしまったのではないか。
 記者が見出し案を作り、それを元に整理部員とやりとりできる機会があれば、こういう問題は少なくなるだろうになあ。余計なお世話だが、個人的にはそんなことを考えた。

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コメント:2

kame 2010年11月17日

こんばんは。kameです。

「1人1日当り2分間」
確かに人数で割り算すればそういう数字になるでしょう。ただ、名古屋市の“改革”で増えた業務は
「Aさんの1時間の業務を、30人×2分間に分割できる」
という性質のものばかりではなく、むしろ制度変更に伴う既存法令の整合性の検討、影響調査のような小分けにできないものが多いのではないでしょうか。

もちろん、業務が集中する部局に人的・物的資源を動員する流動性は必要です。ただ名古屋市の財政難と人員削減の下で、理想的な配置は困難だろうと想像します。
そうして市政「改革」の影響はある範囲の部署と職員に集中的に上乗せされ、それに見合うリソースは配分されず、当事者には数十%増の文字どおり「ずしり」が実感ではないか、と懸念します。

どんな組織でも業務負担の均分化は難しく、公的機関は特に不得手としているのは確かでしょう。
しかし、いずれ名古屋市の組織は“改革”に見合った構造に組み替わるはずです。
そのとき初めて、ご指摘の
「1人当り2分」
が実現することになるのです。きっと。

白谷 2010年11月18日

kameさん、ご無沙汰をしております。
コメントありがとうございます。
.
名古屋市職員の中でも、業務の負担に多寡があるというご指摘は、
その通りだと思います。
「全員が1人2分」ではなく、「1人が1時間多く残業し、
ほかの29人は以前のまま」というのが現実に近いのでしょうね。
.
個人的には、市政を刷新するにあたって
職員の労働時間が増えるのは、きわめて当然のことだと思います。
僕らの業界でも、新しい媒体を出すときなどは、
普段よりずっと忙しくなります。
どの業界もそうなのでしょうね。
.
もし、サービス残業が強要されたり、
特定の職員に過重な残業が集中していれば、それは問題でしょう。
しかし、名古屋市の状況が朝日新聞が報じるとおりであれば、
取り立てて問題視するほどではないというのが、僕の見立てです。

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