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誤植満載「平城京レポート」のページ毎編集費はたったの1万4000円

法華寺が法華時…誤りだらけの平城京レポート

 奈良県は31日、昨年の平城遷都1300年祭の内容をまとめた冊子「平城京レポート」に誤記や再確認が必要な記述が計170か所あったと発表した。
 県は配布予定だった800部を、編集を委託した業者(東京)に返品し、刷り直すよう求めている。昨年末に約1000部を発行した後、20か所以上のミスが判明、対応を検討していた。

(2011年1月31日 読売新聞)

 誤植や誤記が満載の出版物。編集者やライターにとって、悪夢のような話だ。
 もちろん、そんなダメな出版物を出した編集者は、責任を問われてしかるべきだろう。だが、記事を読む限り、編集側にも同情の余地は大いにあると思う。

 上の読売新聞記事によれば、「平城京レポート」はA4判、284ページ。「編集費」は約400万円だという。1ページあたりに直すと、400万円÷284ページ≒1万4000円だ。
 僕は、書籍やパンフレットの原価管理に携わった経験がない。また、この「レポート」がどのような内容なのかも知らない。ただ、常識的に考えれば、こんな予算で質の高い出版物を作るのは不可能だ。
 ここで言う「編集費」が、どこまでを指すのか判然としない。そこで、「編集者の企画・ディレクション・原稿整理に対する対価(編集料)+ライターの執筆料+DTP担当者への対価(デザイン料)」までを含むと仮定しよう。それぞれのざっくりとした相場は、編集料がページ3000~5000円、執筆料が8000~1万5000円、デザイン料が2~4000円といったところではないか。この時点で、最低でも1ページあたり1万3000円の費用がかかる。当然、カメラマンやイラストレーターに写真やカットを頼む余裕はない。校正者も無理だ。ましてや、誤字などを訂正するだけでなく、文章内容にまで踏み込んでチェックする「校閲者」など、とても呼べないだろう。

 原稿を書くライターにしても、この予算では多くを望めまい。読売新聞記事によると、「レポート」の原稿は、30人の外部ライターが手分けして書いたそうだ。おそらく、ほとんどは奈良の歴史にも仏教にも明るくない、ごく普通のライターだったはず。この仕事に適任な書き手が、30人もいるわけがないのだ。
 総ページ数は284ページだから、1人あたりの担当ページ数は9ページほど。原稿料は、全部で数万円といったところだ。ライターの立場からすれば、この程度の記事に膨大な時間は掛けられない。現地取材などもってのほか。多くのライターは、ネットや図書館で集めた参考資料をつなぎ合わせ、何とか原稿をまとめたのだろうと想像する。そりゃ、事実誤認が頻出するのも当たり前だ。

 奈良県は「執筆期間が短く、確認も不十分だった」とコメントしている。しかし、この出版物が失敗したのは、期間が足りなかったためではない。3カ月もあれば、立派な書籍を仕上げるには十分。むしろ原因は、明らかに予算不足=人手不足だ。予算をかけなかったのだから、それ相応の成果しか上げられないのは当然だろう。

 僕がこのプロジェクトの担当者なら、現状の2.5倍の予算がほしい。そうしたら、少し値は張るが、腕が良くて歴史や仏教の知識を持つライターを3~5人確保する。また、博識で歴史関係の出版物を手がけた経験の豊富な校閲者と、大学教授などの監修者も用意。あとは、県の担当者と企画内容をしっかり煮詰め、スタッフなどとの交通整理を普通にこなせば、自動的に質の高いレポートが仕上がるはずだ。

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 世の中には、出すことが最大の目的という出版物がある。お役所が作る報告書は、その典型だ。目を通す人はごく少数。報告をまとめたという「アリバイ作り」をするだけの存在だ。
 そうした出版物を低コストで作るのは、ある意味、目的にかなっていると言えるだろう。今回の「レポート」は薬師寺による抗議によって注目度が高まり、そのずさんな内容が明るみに出た。しかし、こうした「低コスト・低品質」な出版物は、日本のあらゆる場所で生み出され、誰の目にも触れぬまま消え去っているのだろうと思われる。
 出版関係者の端くれとしては、思わず考え込んでしまうニュースだった。

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